華岡青洲(1760--1835)の弟子である本間棗軒が著した『内科秘録』。
カタカナの書き下し文となっているため、古典にしては比較的読みやすいです。
この時代は孫思邈が記した『備急千金要方』が広く読まれたらしく、同じ時代である鍼灸重宝記とも重なる記載が多いように見受けられました。
こちらの早稲田大学図書館、古典籍データベースにて画像化されており、全文読むことができます。
https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ya09/ya09_00777/ya09_00777_0005/ya09_00777_0005.pdf
今回は、治法部分のみ抜粋し、少し読みやすく修正しました。
【治法】
卒倒して牙関緊急・四肢搐搦し人事を省せざる者は既に死地に墜たるように見える。
これ任脈は胃気を存じて必ず回生する者なり。
まず三黄湯、若しくは参連湯、或いは加熊胆、若しくは回生散などを与える。
口噤して薬汁の入りがたき者は鼻より注入すべし。
凡そ不省人事の病人は咽喉も知覚を失し、〇厭にて気道を蓋はす。
飲食を誤って肺中に入り、卒死する。そうであれば薬汁も徐々に斟酌して用いるべし。
よく欠伸して精神較回復し、発熱、汗出、脈浮数なる者は抑肝散、或いは加羚羊角に宜し。
発熱して虚裏悸動高く精神較復すると雖も尚恍惚として、或いは驚き、或いは怯れ、或いは妄語、或いは不寝、或いは瘈瘲未だ止まざる者は、三黄湯加辰砂・柴胡加竜骨牡蛎湯・大柴胡湯加羚羊角・候氏黒散・羚角飲等を撰用すべし。
卒然として口眼喎僻になり微腫して色を変ずる者は乳刺して敗血を去り、或いは刺絡し涼膈散加石膏を与うべし。
唯、喎斜するのみにて腫ざる者は羚角飲に宜し。
熱已に解し、眩暈未だ止まず心下痞硬、よく嘔して涎沫を吐き、或いは曖気の多く出る者は半夏瀉心湯加茯苓、神験有り。
虚裏、及び臍膀の悸動尢く、逆気屢心下を衝いて死せんと欲する者は苓桂朮甘湯、或いは三黄湯合茯苓桂枝甘草大棗湯・奔豚湯等を撰用すべし。
凡そ癇病、寒涼鎮墜の薬を用いて後、気逆眩暈頚項強り四肢瘈瘲、或いは麻木、或いは不遂、或いは攣急、或いは精神恍惚、或いは憂鬱、或いは傷悲、或いは喜笑等の証、荏苒として久しく愈ざる者は沈香天麻湯に宜し。
癇の症候なく但日夜喜笑して止まざる者あり。是も亦癇なり。甘麦大棗湯に宜し。
◆抑肝散:平肝熄風・疏肝健脾
(肝のはたらきを正常にすることで、体の巡りをよくする。また、脾の働きを高めることで、肝を補う。)
◆候氏黒散:益気活血・祛風化痰
(正気(せいき)、血(けつ)の不足を補い、風湿の邪を発散させたり、動かしたりして症状を解消させる。)
◆三黄湯加辰砂:清心瀉火・解毒・泄熱化湿。
(上部の熱を下降させる(降火)作用がメイン。)
◆柴胡加竜骨牡蛎湯:少陽、厥陰を通利し、清熱・安神・去痰など。
(少陽、厥陰という部位を交通させることによって、熱を冷まし、精神を安定させ、痰を取り除く。)
◆羚角飲:見つけられなかったのですが、羚羊角は確実に入っているだろうと思うので、その効能のみを記載します。
羚羊角→凉肝熄風・瀉火明目・散血解毒(肝火を瀉し、心肺を清する)
◆半夏瀉心湯加茯苓:開結除痞・調和脾胃・寒熱併調
(寒熱、昇降を調和させ、心下のつまりを開通させる。)
◆三黄湯合茯苓桂枝甘草大棗湯:清心瀉火・解毒・泄熱化湿
(上部の熱を降下させ、痙攣などの筋肉の緊張を緩和させる。)
◆奔豚湯
(逆気を正常化させ、気を引き下げる)
◆沈香天麻湯
(みぞおちを開き、風湿をさばいて、温めて、巡らせる。)
◆甘麦大棗湯:養心安心・和中緩急
(心陰を補い、情緒を安定させる。)